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2024.06.03

いつでも採用、いつでも入社が受け入れられる社会へ。入り口の固定化を変えていきたい| 積水ハウス 安信 秀昭さん

識者に聞く「10年後の就職活動」 Vol.8

就職活動・新卒採用をめぐるさまざまな議論が行われています。そこで、若者が自分らしい意思決定の上、期待感を持って社会への一歩を踏み出すために、「10年後の就職活動・採用活動の在り方」というテーマで、各界を代表する識者の皆様にインタビュー。今回は、積水ハウス株式会社 執行役員 人財開発部長 安信秀昭さんのお話をご紹介します。
 

積水ハウス株式会社
執行役員 人財開発部長
安信秀昭さん

 

【Profile】

1995年入社。人事部に配属となり新卒採用担当としてキャリアをスタートし、労務管理、人事制度企画、M&A、国際事業担当人事、人財開発などを経て、2023年より現職。2024年4月に執行役員就任。

 

個人と企業の関係はより対等に、選び・選ばれる関係へ

 
キャリアオーナーシップは企業から個人へと移っていく
 
これからの個人と企業の関係性は、個人が企業に“所属する”という従来の在り方から、個人と企業が“選び/選ばれる関係”へと、ますます変化を続けていくと見ています。
人的資本経営の実現に向けて、積水ハウスが掲げるテーマは「人財価値の向上」です。そのためには、従業員一人ひとりの自律が不可欠であり、個人と企業は対等な関係でなくてはいけないと考えています。

 
対等な関係においては、「一企業だけに就職し、所属し続ける」という概念に留まらず、さらに多様で流動的な働き方に移行していくのではないでしょうか。プロジェクトベースで複数の企業と契約を結び、期間限定でパートナーシップを結ぶ働き方も徐々に広がっていくのではないか。それはつまり、これまで企業が主導権を握っていた異動や昇進等の人事権を手放し、個人が主体的にキャリア選択をしていくということです。このようなキャリアオーナーシップを個人が持つ限り一つの組織体の中だけではなく、広い社会の中でキャリアを積み上げていくことがより重視されていくのではないかと思っています。
 
入社前から入社後まで、キャリア自律を促す積水ハウスの取り組み
 
キャリアオーナーシップの醸成に向けて、積水ハウスでは20年以上前からキャリア構築の支援プログラム「キャリア自律コース」を実施してきました。入社1年目、2年目、キャリアコース選択前、管理職クラスに上がるタイミングの計4回、キャリアステージが変わるときに、改めて自分のキャリアについて考える機会を提供しています。並行して、主体的に学びを得る機会として、階層別研修のほかに選抜型の研修や、学びのプラットフォームから自分で必要なものを選んで勉強する取り組みも進めています。例えば、社内のキャリアパスの一つであるマネジメントポジションに就くには、どんな経験やスキルが求められるのか。職務記述書を開示することで「この領域の学びが足りない」と個人が自ら気づき、行動できるようにしています。
 
ほかにも、上司とメンバーが1on1でキャリアと成長について話す機会や、上司を介さず人事に直接異動希望を申請できる「人財公募制度」や「キャリアコーディネート」の運用も活発に進めています。人事側は、個人の希望を集約・検討し、「この人には、こんなキャリアを積んでもらったらいいのでは」とコーディネートしていく役割も担っています。自ら手を挙げる人に、チャレンジを後押しするような選択肢を提案することで、キャリアの幅を広げていくことができればと考えています。
 
また、キャリア自律を入社前のインターンシップの段階で意識してもらうようなプログラムの開発にも動き出しています。インターンシップの入り口では、学生の皆さんが就業体験したい職種や組織を選んでもらいますが、その後、ほかの職種を体験した学生が集まり議論を交わすことで、当初興味を持っていた職種以外にも関心を持てるような機会を提供していきたいと考えています。一人の学生の就業体験をほかの学生が疑似体験することで、「自分が見えていた範疇以外の選択肢」に気付き、改めてどんな仕事がしたいかを視野を広げた上で、見つめ直してもらいたい。さらに、積水ハウスグループ全体がどんな資源やフィールドを持っているのかを就活のプロセスでお見せし、職種やグループ会社の選択肢を開示することで、学生の理解度を深め、入社後の納得感につなげていきたいと考えています。
 
キャリアに向き合い、学びと挑戦のサイクルを回すことで、個人がキャリアオーナーシップを持つ。それが個人の幸せにつながると考え、積水ハウスでは、採用の入り口の段階から、自律型人財の育成を目指しています。

 
出入り自由な組織こそ、これからの選ばれる組織になっていく
 
人的資本経営におけるキャリア自律の重要性という観点からすると、新卒一括採用の在り方にはズレが生じてきていると感じています。人的資本経営では、経営戦略と人事戦略を連動させ、戦略実現に向けた人財ポートフォリオに見合ったスキルの方を採用していく必要があります。他方、新卒採用においては、ポテンシャル人財が、同時期に何十人、企業規模によっては何百人と入社することになるので、若干、そういった動きにマッチしなくなってきているのではないでしょうか。
 
もちろん新卒採用にはいい面もあり、大学卒業後に安定的に次のステップに進めるという学生側の安心感は大きいと思います。企業側にとっても、労働力不足の中で一定の人員を採用できることはメリットになります。ただこれからは、スキルマッチングを図りやすいキャリア採用比率を上げていく企業が増えていくのではないでしょうか。新卒採用においても、学生側が持つ自身のスキルと、企業側が求めるスキルセットを伝え合い、両者がどうマッチングするのかを踏まえて採用が決まる流れになっていくのではないかと見ています。
 
「卒業したら就職」だけでなく、キャリアの選び方はもっと自由でいい
 
新卒一括採用の一律のスケジュールや枠組みの中に「入ってください」というのは、企業主導の考え方です。個人と企業の関係性が対等であるためには、採用の入り口の在り方を変えていくことが重要でしょう。私は、就活のスケジュールに関して、学生一人ひとりが自分にとって、適した時期を選択できるような「いつでも採用、いつでも入社」の在り方が広がっていけばいいと考えています。
 
就活が学業を阻害するといった議論がありますが、それは、大学を卒業したら必ず就職するという“入り口の固定化”があるから生まれてしまうのではとも思っています。入り口がより流動的であれば、大学1年生から就活をしたいと動く学生も出てくるでしょうし、大学の間はアカデミックな活動に集中して、卒業後にビジネススキルを身につけてから就職を考えたい、という学生も出てくるかもしれません。もちろん、大学における学業や課外活動でしっかりと学びを深めた上で、という前提があってこそですが、大学在学中に入社する人もいれば、ビジネススクールで学んだのち既卒3年目で入ってくる人がいてもいい。今のように「大学を卒業したら4月には入社」という形が決められていると、“働きたい”ではなく、“働かなければいけない”というやらされ感を持ってしまう学生も少なくないでしょう。入り口がもっと自由になれば、入社と同時にモチベーションが下がるということも減っていくのではないかと思っています。出入りの自由な社会をつくっていくためには、官民学それぞれの意識改革や制度設計が必要です。
 
例えば、大学を卒業したあとにキャリアを学べるような教育機関に対して、政府から何らかの支援があってもいいかもしれません。そもそも、学生が経済的な負担を考えずに学びたいことを学べる環境づくりとして、教育の無償化は、ぜひ進めていただきたい大きなテーマです。教育機関は、大学入学後はもちろん、高校など早期の段階で、仕事や働くことを意識させるキャリア教育を広げることが大切です。
 
そして企業側は、入社後にどのようなスキルが求められるのかを学生や求職者に対して、積極的に開示していく必要があります。また、新卒入社した企業で定年まで勤め上げる前提となっている組織ではなく、出入り自由で一度外部に出た人財がいつでも戻ってこられる組織であることの方が、これからは魅力的な職場になっていくのでは。個人側には、自分のスキルをどう磨き、どう可視化できるかを考えていく必要性が高まっています。しかし、一括採用のような入り口の固定化が徐々に薄れていくのであれば、在学中も卒業後も多様な経験を積み、足りないスキルを身につけた上で社会に出るという選択肢が広がっていくのではないかと考えています。
 
 

取材・文/田中瑠子 撮影/刑部友康

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