世界でトップクラスのシェアを持つ企業は、事業で、技術で、どのような強みを持っているのでしょうか。大きな成長目標を掲げ、人材採用・育成や研究開発、設備への投資を中長期的に続けている化学品メーカーに、採用に懸ける想いを伺いました。
【いま、新卒採用に注力する理由】
Vol.11 東洋合成工業株式会社(化学品製造)
取締役 経営企画部長 渡瀬 夏生さん
執行役員 人材総務部長 水戸 智さん(写真)
※記事は、2021年1月7日にオンライン取材した内容で掲載しております。
【Company Profile】
1954年設立の化学素材メーカー。蒸留精製と精密合成技術を核に、時代を先読みした研究開発成果をもとに新規分野に進出し続けている。半導体産業に注目し、半導体製造に欠かせないフォトレジスト(半導体製造工程において微細な表面処理をするための薬品)向けの感光材メーカーとして、世界でもトップクラスのシェアを占めている。2020年に経済産業省「グローバルニッチトップ企業100選」選定。2000年3月ジャスダック上場。グループ従業員数716名 (2020年9月末時点)。
3つの事業を支える技術とは?
渡瀬さん:当社には、感光材事業・化成品事業・ロジスティック事業の3つの事業があります。すべての事業に、当社が創業以来磨き上げてきた、蒸留精製による高純度化技術と、精密合成技術が活かされています。そして、いまも新規分野に進出するための技術開発を続けています。
当社は経営理念に「人類の文明の成長を支えるため、人財・創造性・科学技術を核として、事業を行い、その寄与度を高めるためにも成長する」と掲げています。経営理念に沿って4つの事業ポリシー、「時代に必要とされるものを作る」「他者が作れないものを作る」「研究開発を核とする」「諦めずに愚直に誠実にやる」を定めています。このポリシーに基づき、時代に必要とされるものを作りつづけた結果、当社のほぼすべての製品が、国内外でトップクラスのシェアを獲得しています。2020年に、経済産業省の「グローバルニッチトップ企業100選」に選定されたのも、これらのポリシーに従って研究開発・商品化を進め、事業展開してきたことが評価されたものと思います。
当社の各事業は、蒸留精製と精密合成の技術を、時代のニーズに合わせて活かして発展させてきました。化成品事業は、輸入した化成品を使用可能にするために行っていた、蒸留精製の技術と紐づいています。戦後間もない頃、日本は多くの化成品を輸入していました。当時は、化成品の海上輸送中に異物や不純物の混入が起こりやすかったため、日本到着後に蒸留精製して使用可能にする必要があったのです。創業期の当社は、蒸留精製の技術を磨き上げ、化成品の安定供給に貢献してきました。また、当社が手掛ける化成品には、精密合成によって製造するものもあります。蒸留精製技術を磨き上げる中で培ってきた経験を、精密合成技術の取得に活かしていきながら、さまざまな化成品を製品化してきました。当社の化成品は、日常生活の幅広い用途に使われています。例えばトイレタリー製品用途に使われる香料材料は、コロナ禍でも需要が伸びているものの一つです。
感光材事業は、1970年代の2回のオイルショックにより、日本の景気が悪化したことがきっかけになっています。当時、大手企業から蒸留精製を受託していたのですが、景気悪化で一気に仕事がなくなりました。そこで、当社の創業者は、自社の新しい技術として時代に沿ったものを作るため、当時の日本ではフォトポリマー研究の第一人者であった大学研究者の助言を元に、半導体製造に欠かせないフォトレジストの原料になる感光材の開発に着手し、製品化に成功しました。感光材の製造には、当社が培ってきた蒸留精製技術と精密合成技術が活かされています。半導体製造プロセスは、他の製造業の分野では類を見ないスピードで進歩してきました。当社は日本の半導体開発の黎明期から、感光材の事業を継続・発展させてきた、数少ない感光材メーカーの1社です。
最後にロジスティック事業について触れましょう。東京湾岸の中心(千葉県市川市)、首都圏へのアクセスの良いエリアの広大な敷地で、容量、材質、機能を備えた化学品保税タンクを保有し、化学品の受入・貯蔵・輸送に対応する首都圏の供給拠点を担う事業です。半世紀以上にわたる高度な化学品取扱ノウハウが、高度な品質管理を可能にし、印刷会社や塗料会社を始めとした化学品を扱う企業の支えになっています。
「お客様の感動を作り出す」-経営と現場が共有する行動指針
渡瀬さん:当社の経営の強みは、お客様や、協力会社・共同研究等ステークホルダーとの信頼関係の構築を重視していることです。
6つある行動指針の一つに「お客様の感動を創り出し信頼を勝ち取ります」というものがあります。製品情報の提供を通じて感動を作り出し、お客様・ステークホルダーの信頼を勝ち取っていく――。その上で社員・チーム・会社そのものが成長し、課題を解決することができると、経営と現場で共有されています。
当社は中期経営計画において、2023年3月期に、売上高を2018年3月期比約1.5倍の300億円にする計画を掲げています。計画達成に向けて、行動指針をベースに技術戦略を強化して、お客様が求める品質と生産性を両立する生産技術の開発を前面に押し出しているところです。超高品質と生産性を両立させるのは難しいのですが、社員全員で挑戦し、日本のマテリアルイノベーターになることを目指しています。
中長期的な視点で、人材への投資を続けていく
水戸さん:中期経営計画の達成に向けて、コロナ禍においても中長期的な投資を続けています。2020年秋には、千葉工場敷地内に最先端の半導体向け感光材の製造工場を建設し、稼働を開始しています。そして、その設備を活かして、よりお客様のニーズに応えていくためには、製造・開発・品質管理・品質保証・バックオフィスも含めて、人材配置を強化すべきポジションが数多くあります。
このような投資背景と併せて、新卒採用は、将来の事業成長につながる優秀な人材を採用するために継続していくべきだと考えています。今後も毎年30人程度、継続的に採用していく方針です。また、将来に向けた新卒採用と併せて、高度な専門性を持つ各部門のプロフェッショナル人材の中途採用も進めています。新卒採用者と中途採用者で合わせて、当面は年間50~80人程度の採用を続けていく予定です。
組織内の人のつながりを維持・強化していくためにも、新卒採用を「採用の軸」のひとつとしています。新卒者は入社してから、各部門で経験を重ねながら成長していきます。同期入社が互いに頑張ろうと支え合いながら成長してくれることや、5~10年後に各部門のリーダー格になって部門間の橋渡しをしてくれることが、当社の組織力を高めていくと考えています。特に化学素材の製造現場では、一人前になるのに10年程度かかると言われており、現場で長く経験を積みながら、知識やノウハウを蓄積してもらいたいのです。
コロナ禍で採用を控えている企業もあると思いますが、当社は引き続き新卒採用に注力していきます。
自分のキャリアの方向性を確認できる人材育成
水戸さん:当社の事業は、社会性があって、他社がやらない、ニッチな分野で価値を創出しています。基本的にはBtoBの事業形態ですので、学生の皆さんから見ると、ダイナミックなビジネス展開には映らないかもしれませんが、当社は、人々の豊かさや便利な生活を支えている多種多様な付加価値の高い機能性材料を作っています。人々の生活を支えているという気概、自分の仕事にプライドを持てる方には、すごく魅力的な会社だと思いますし、そういう方が力を発揮できる会社です。
また、2021年5月から人材育成強化に向けて、いわゆるタレントマネジメントシステムを導入する予定です。社員一人ひとりの適性・価値観・キャリア志向・強み・スキル等を定量化し、今の職場・仕事とキャリアの方向性がマッチしているのかを解析、すり合わせしていきます。人事部門だけがそのような情報を持つのではなく、現場と人事部門と経営が人材や組織に関する情報を共有・活用できるようにして、組織も一人ひとりの社員もハッピーになるような人材配置・育成につなげていきたいと考えています。
この取り組みを始めたきっかけは、組織のマネジメントや社員一人ひとりのキャリア開発を支援するために、共通のプラットフォームを構築すべきではないかという課題認識からはじまりました。これも持続成長が可能な組織づくりにつなげる取り組みの一つです。
事業に共感し、自ら考え行動する人にはやりがいのある会社
水戸さん:社長は日頃から社員に向けて、ベテランと若手、多様な経歴を持つ社員が協力して、東洋合成工業の未来を一緒に創っていこう!と話しています。私も、自分が東洋合成工業をさらに「良い会社にしていく」という気概がある人に入社してほしいと考えています。採用選考では、これまでの経験やスキルなども確認していますが、一番大事なのは、お互いが一緒に東洋合成工業で働きたいと思えるか、ではないでしょうか。心からその想いを共有できるかどうかが、働く会社を選ぶ皆さんにとっても、私たちにとっても、とても重要なことだと思っています。
なかでも、「主体的に自分で考えて自分で行動できること」が、どの職種にも必要だと捉えています。社会性の高い事業において、チャレンジングな仕事に、やりがいを感じ、自ら考え行動できる方に、出会えることを期待しています!
取材・文/衣笠可奈子