各界の著名人に、これまでに出会った、プロとしてすごいと思った人、影響を受けた人など「こんな人と一緒に働きたい!」と思う人物像をインタビュー。
「事に仕える」のが仕事。任されたことにきちんと向き合える人と働きたい
あん みか●韓国出身、大阪府育ち。1993年にパリコレに初参加以後、モデル業以外でも、テレビ、ラジオ、映画への出演、エッセイ執筆、女性や学生向けの講演会など多方面で活躍。世界標準マナーのEPMアドバイザー、漢方養生指導士、NARD JAPANアロマアドバイザー、ジュニア・ベジタブル&フルーツマイスターなど取得資格は20を超える。2002年4月から約1年間韓国延世大学語学堂に留学、韓国語も堪能。09年より韓国観光名誉広報大使、13年より初代大阪観光大使としても活躍している。
想像力を膨らませ、「みんなに喜んでもらえるように」と考えて動ける人
――アン ミカさんが「一緒に働きたい」と思う人の第一条件は何でしょうか。
どんな人とでも働くのが基本ですが、一緒に働いていて気持ちいいのは、やはりちゃんと仕事をしてくれる人。相手の意図をきちんと汲み取れる人です。
例えば、おつかいで「リンゴを買ってきて」と頼まれたとしましょう。リンゴにはいろいろな種類がありますから、相手が何の目的で、どんな色のどんな味のリンゴを求めているのかを把握していないと、せっかくスーパーまで買いに走ったのに、相手の役に立たないということが起こり得ますよね。もちろん、そうならないよう依頼をする側もなるべくていねいに指示を出すとは思うのですが、言われなかったとしても、相手がなぜリンゴを必要としているのかに思いを馳せて、「どんなリンゴですか?」ときちんと聞ける。そういう「汲み取り力」のある人とは一緒に仕事をしていてストレスがありません。
――「汲み取り力」を身につけるには?
「人に喜ばれたい」という気持ちと、想像力を持って仕事に臨むことが大切だと思います。若いうちは経験が乏しいですから、少し仕事がうまくいかないと、「こんなに頑張ってるのに、私ばかりがなぜ大変なんだろう」とネガティブにとらえてしまうこともあるでしょう。でも、「人に喜ばれたい」という気持ちを持って仕事をしていれば、「相手に喜んでもらうにはこうすればいいかな」と想像力を働かせるようになりますし、失敗した時も「どうしたらもっと喜んでもらえたかな」と考えるようになります。相手の意図を汲み取る力というのは、常に想像力を膨らませ、「みんなに喜んでもらえるように」と考えて動くことでおのずと培われるものではないでしょうか。
――ただ、「喜ばれたい」と思っているのに、空回りをしてしまうという悩みもよく聞きます。
それはもしかして、「喜ばれているつもり」になっているだけなのかもしれません。若い時によくありがちなのは、「分不相応」なことをやってしまうこと。まだ自分にその力がなく、周りが求めてもいないことをやると、自分では気を利かせたつもりなのに、人からは傲慢に見られてしまうという残念なことになりがちです。
でも、何が「分不相応」なのかを見極めるのは難しいですよね。以前、社会人経験のほとんどないマネージャーさんと一緒に仕事をした時期があるのですが、彼がそうでした。良かれと思ってやってくれたことが裏目に出やすく、本人も落ち込んでしまって。その時に助言したのが、聞くことを覚えましょうということです。若い時にありがちなのは、「わかりません」と言えなくて、わかったふりをしたまま仕事をしてしまうこと。でも、それでは求められる役割に応え、人に喜ばれることはできません。「すみません。知らないので、教えていただけますか」「先輩だったら、こういう時にどうされますか」と聞く勇気と素直さが大事ですね。
「社会人への第一歩として、あいさつをきちんとできる人になってほしいですね。ちゃんと相手の目を見て、相手に伝わる声を出し、始まりと終わりのけじめをきちんとつける。これがとても大事だと私は思っています」。
自分とは異なる視点や資質を持った人の存在はとても貴重
――これまでお仕事をされてきて、「こういう人に助けられた」という経験があれば、教えていただけますか?
たくさんの方のお顔が思い浮かびますが、自分とは真逆の意見を持った人に助けられることが多いです。気を遣って「わかる、わかる」と言ってくれる人よりもスパンと自分の意見を言ってくれる人が好きで、不思議と周りにはそういう人が集まっています。はっきりと意見を言ってもらえると、議論しやすいので、仕事の展開が速くなるんですよ。
日本でははっきりものを言わない傾向がありますし、特に相手が目上の人の場合は遠慮してしまうという気持ちもわかります。でも、気づいたことや思っていることを我慢して伝えずにいると、ストレスがたまりますし、早めに伝えておけばみんなが気づけたことを後になって伝えれば、「なぜあの時に言ってくれなかったの?」と言われてしまうこともあります。だから、自分の意見が相手と異なる時に、きちんと伝えるというのはすごく大事だと思います。ただし、相手の意見への敬意を示したうえで「ところで、私はこう思うのですが、いかがでしょうか」と話すといった伝え方の工夫はもちろん必要です。
それから、私ね、「リマインドしてくれる人」によく助けられています。
――「リマインドしてくれる人」ですか。
私は大雑把なので、細やかにリマインドをしてくれる人は本当に助かるんです。先ほどお話しした「真逆の意見を持った人」もそうですけど、自分とは異なる視点や資質を持った人の存在はとても貴重です。仕事というのはチームでやりますから、メンバーがお互いを補完し合える関係でいられると、とても心強いですよね。
あと、リマインドに関しては、きちんとできると、どんな組織でも重宝されると思いますよ。私自身もときどき反省しますが、今は情報化で世の中のスピードが速くなって、きちんと確認するということがおろそかになりがちです。それに、仕事で起こるトラブルというのは多くの場合、「伝えたつもりのこと」と「伝わったこと」の違いから生じますから、「先日、こうお話ししたつもりなのですが、伝わっていますか?」とリマインドすることはとても大切。若いうちから意識して鍛えておくと、財産になる力だと思いますよ。
社会と手をつないで生きていくことの大切さを父に教えられた
メールやSNSなどの情報伝達のツールが進化し、顔を合わせなくてもコミュニケーションを取れる時代だからこそ、「人ときちんと向き合うことを大切にしたい」とアン ミカさん。インタビュー中も終始笑顔で目を見て話をしてくれた。
――働くうえで、アン ミカさん自身が大切にしてきたことを教えていただけますか。
シェアをすることです。自分が好きなこと、楽しいことをやるのは「趣味」ですが、それが誰かの役に立ったり、喜んでもらえれば、「仕事」になります。
そうやって社会と手をつなぐことの大切さを教えてくれたのは、父です。私は15歳でモデル事務所に所属しましたが、オーディションに落ちてばかり。高校卒業後にモデルを職業にしたいと言った時、父は大反対しました。それでも夢をあきらめようとしない私に父が条件を出しました。まず、家を出て、一流になるまで帰ってくるなと。さらに、「新聞を読み、社会の進む道を知れ」、「モデル以外の資格を取れ。資格を取れた時だけ電話してきていい」と言い渡されました。
モデルは常に人と比べられる仕事です。付加価値がないと生きていけませんが、私はショーモデルとしては背が低すぎるし、雑誌などで活躍するスチールモデルとしてやっていくには顔立ちに可愛らしさがなく、モデルとして飛び抜けたものがありませんでした。そうなると、「知性美」を味方にするしかないと父はかねがね言っていました。それに、モデルは不安定な職業です。もし、モデルとしてやっていけなくなっても、社会の動きを知っていて、モデル以外にもできることがあれば、社会から求められ、人として自信を持てる。だから、「新聞を読め」「資格を取れ」と言ってくれたんです。
実際、モデルのオーディションに合格するようになったのは、資格の勉強を始めてからでした。オーディションの集団面接で趣味を聞かれることがよくあったのですが、周りが「読書」「音楽鑑賞」といったオーソドックスな趣味を答える中、「社会にこういう動きがあるので、こんな資格の勉強をしています」と話すと、面接担当者も興味を持ってじっくり聞いてくれるんですね。そうすると、相手の印象に残るので、受かりやすくなったんです。
当時は思いもよりませんでしたが、今、タレントとしてテレビやラジオに出演したり、執筆をしたりとモデル以外にいろいろなお仕事をさせていただいているのも、父の教えを守って社会の動きに関心を持ち続け、自分が何をすれば人の役に立てるか、喜ばれるかを考えて動いてきたからかなと思っています。
――最後に、学生にメッセージをいただけますか?
仕事は「事に仕える」と書きますよね。私が一緒に働いて楽しいのも、任されたことにきちんと向き合える人。事に仕え、誰かのお役に立つためにやるのが仕事の本質だと私は思います。人はえてして自分が何をしたのか、世の中に何を伝えたのかを意識しがちですが、事に仕えるには、世の中が何を求め、自分のやったことが世の中にどう伝わったかに思いをめぐらせることが大切。それさえできれば、失敗することはありません。
最後に、就職をして仕事が合わないと思っても、「任されたことに対して自分にできることは何だろう」と考えて一定期間は続けてみてください。それでも「やっぱり違う」と思ったら、新しい道に飛び込むのもいいと思いますが、男女の別れと同じで、会社との別れもきちんと「ありがとうございました」を言ってけじめをつけることが大切です。「職場を去る時は、入った時と同じ温度で握手をする」というのが私の理想で、実際にそうしてきました。別れ際がきれいだと負い目がなく、未来に向けて胸を張って進んでいけますよ。
Information
2019年3月7日発売の著書『アン ミカ流 ポジティブ脳の作り方 365日毎日幸せに過ごすために』(宝島社)では、どんな出来事もネガティブからポジティブに転換するための物事の捉え方を伝授。逆境を超えて活躍しているアン ミカさんならではの説得力のある言葉が散りばめられている。
取材・文/泉 彩子 撮影/鈴木慶子 ヘア・メイク/K.Furumoto