各界の著名人に、これまでに出会った、プロとしてすごいと思った人、影響を受けた人など「こんな人と一緒に働きたい!」と思う人物像をインタビュー。
話し合える仲間と作った作品は、胸を張って世に出せる
やました・だいき●静岡県生まれ。専門学校・ミューズ音楽院、日本ナレーション研究所卒業。2012年、テレビアニメ『リトルバスターズ!』で声優デビューし、13年、テレビアニメ『ガイストクラッシャー』の白銀レッカ役で初主演。以後、数々のテレビアニメ、ゲームなどに出演。代表作にテレビアニメ『僕のヒーローアカデミア』の主人公・緑谷出久役、テレビアニメ『弱虫ペダル』の主人公・小野田坂道役など。
初主演作の音響監督からもらった言葉に背中を押された
――声優としてのデビュー作は2012年に出演された『リトルバスターズ!』ですよね。どんなお仕事でしたか?
陰口を言う生徒役で、セリフはひと言だけ。それでも、緊張でガチガチでした。何もかもが初めてで、「スタジオに入ったらどこに座ればいいのか」「雑音を立てないよう」といったことからマネージャーさんに教えてもらうような状態でしたから…。皆さんの足を引っ張るようなことをやらかさないようにすることに精一杯で、当日の記憶がほとんどないです(笑)。
――そんな山下さんが、翌年には『ガイストクラッシャー』で初主演! すごいですね。
声優のオーディションには大きくわけてテープオーディションとスタジオオーディションの2種類があるのですが、スタジオオーディションを受けたのは『ガイストクラッシャー』が初めてでした。この時もすごく緊張していたのですが、スタッフの方たちには「とにかく大きな声で元気」という印象を持っていただいたみたいで。それが選んでいただいた理由だと後にうかがいました。
テレビアニメは1クールでひと段落という作品が多いのですが、『ガイストクラッシャー』は4クール連続。同じスタッフさん、キャストで1年間じっくりとひとつの作品を作り上げるという経験をデビュー間もない時期にさせてもらえたのは、本当にラッキーだったと思います。共演者の方にもすごく恵まれたんですよ。メインキャラクターは同世代中心で、切磋琢磨できましたし、脇を固めるキャラクターや敵役の声優さんたちがものすごく豪華で、アニメが好きな人なら誰もが知っている大御所の方々が揃っていたんです。
――そんな中、主演を務めるのはプレッシャーもあったのでは?
それが…。当時は自分のことで必死すぎて、その環境がいかにすごいことかに気づいていませんでした。逆に、今なら震えてしまいます(笑)。
先輩たちは冗談を言って場を和ませてくれたり、食事に誘ってくださったり、とても温かかったです。スタッフの方々にも支えていただきました。音響監督の石橋里香さんが姉御肌で気っぷのいいキャラクターの方で。「山下はうまくないんだから、とにかく思い切りやりなさい。声が裏返ったって気にしなくていい。それがいいのよ」と言っていただいて、すごく気持ちが楽になりました。「余計なことは考えず、自分の100パーセントを出し切ればいい」と背中を押していただいたような感じがあって。
――『ガイストクラッシャー』がその後のキャリアに与えた影響は大きかったですか?
ものすごく大きかったと思います。この作品で演じた「白銀レッカ」という少年がとにかく叫ぶキャラクターだったんですよ。日常会話でもビックリマークが五つくらいついていて、闘う時はさらに増えるというような。
振り返ると、僕が演じさせていただくのはよく叫ぶキャラクターが多くて。『僕のヒーローアカデミア(以下ヒロアカ)』の「緑谷出久」もそうなんですけど、『ヒロアカ』が始まったころに音響監督さんが「そんなに叫んで、よく喉が壊れないね」とおっしゃったんです。僕にとってはいつものことだったので少し驚いて、その時にあらためて、自分の武器って「叫び」なのかなあと。
『ガイストクラッシャー』のときって、やっぱりすごくナイーブな時期だったと思うんですね。初主演でもあるし、「頑張らなければ」と頭の中がもう、ぐるんぐるんしてて。そんな時にありのままの自分を認めてくれ、励ましてくれた方たちがいたのは本当に心強かったです。おかげで思い切り、自分らしく叫んでこられたんだと思っています。
初主演作がオリジナル作品だったこともいい経験になったという。「原作ものも好きですが、オリジナル作品にはスタッフや共演者の皆さんとゼロからキャラクターを作り上げていく喜びがあります。デビュー間もないころにオリジナルを経験させていただけたことは、本当に勉強になりました」。
自分らしさを大切にしつつ、新たな可能性を見つけていく
――ツイッターで公開されているアニメ『耐え子の日常』ではマジシャンや子ども、おばあちゃんまでさまざまな役を一人で演じていらっしゃって、驚きました。
『耐え子の日常』はプロデューサーさんが僕の出演作をたくさん見てくださっていて、「山下さんって、幅広い役をやっていらっしゃいますよね」とお話をいただいたんです。子どものころからいろいろな声を出して遊ぶのが好きなので、めちゃくちゃ楽しかったですね。
僕が演じさせていただく役はひたむきで一生懸命というタイプが多くて、そういうキャラクターってすごく自分らしいと感じています。ただ、自分らしさを大切にしつつ、新しい可能性も見つけていけたらいいなといつも思っていて。だから、自分では思いもよらないようなお仕事をいただくと、わくわくします。
――演技の「引き出し」を増やすために心がけていることって、あったりするんですか?
「引き出し」って自分だけでは増やせないと思うんです。「もしかして、こういうこともできるんじゃないかな?」と誰かが思ってくれたときにそれにちゃんと応えようとすることで、初めて引き出してもらえるというか…。
例えば、『うたの☆プリンスさまっ♪ マジLOVEレジェンドスター』(2016年)で演じさせてもらった「天草シオン」。自分のことを「天草」と呼び、少し時代がかった言葉づかいをする不思議なキャラクターなのですが、オーディション時にはイメージ作りの手がかりになるものがほとんどなかったんです。あったのは、天草シオンの数行のプロフィールとオーディションで言うセリフだけ。ただ、すごく個性的なキャラクターが求められていることはわかったので、これまで自分が出したことのないような声で、ネチネチとしゃべったんですね。「賭けだな」とは思ったんですけど、思い切って。
そうしたら、まさかの合格(笑)。オンエア後は、ずっと応援してくれているファンの方から「山下さんと気づかずに天草の声を聞いていました」と言われて、「よっしゃあ!」と思いました。
自分の性格を「負けず嫌い」と分析する。「やるからにはベストを尽くすので、それに対して何かを言われるのが悔しいんです。逆に、自分が最高のパフォーマンスを目指してやったことを評価してもらえるとすごくうれしい。ほめられたいから頑張るというところがありますね」。
『ヒロアカ』の制作現場は、みんなの熱量がものすごい
――『僕のヒーローアカデミア』は劇場版も大ヒットして、第4期の制作も決定していますよね。『ヒロアカ』の撮影現場はいつもどんな感じですか?
スタッフさんもキャストも、すごく気合いが入ってますね。熱量がものすごいです。本番ももちろん真剣勝負なんですけど、それまでの話し合いがすごいんですよ。本当にたっぷりと時間をかけて、お互いが納得するまで議論する。「僕はこう思います」「でも、こういう考えもあるよね」「じゃあ、こういうのはどうですか」って、とことん。
「話し合いができる」って、すごく大事なことだと思います。話し合ってでき上がったものって、自信が持てるんですよね。あれだけみんなの意見を出し合って作った作品なんだから、面白くないはずがないって。
あと、『ヒロアカ』の現場で感じるのは、「好きであること」って最強だなって。あの熱量って、「好きであること」が放っているものだと思うんです。声優もそうですし、音響のエンジニアさんも、アニメーターさんも好きだから、あそこまで熱を注げる。だって、好きなものって没頭できて、掛け値なしにやれちゃうじゃないですか。
好きで、それをより良くしていくためにとことん話し合えること。「この作品って面白いよね」ってお互いに「好き」を共有できること――そういうのって仕事で信頼関係を築いていくうえでめちゃくちゃ大事だなと。作品に対して愛情を持ち、話し合える方たちと仕事をさせていただくのはものすごく楽しい。もうホント、そうやってみんなで作ったものは叫びたいくらい自信を持って世に出せます。「絶対に面白いから、みんな見て!!!!!」って。
取材・文/泉 彩子 撮影/刑部友康