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2012.03.27

<第1回>大卒就職のイマ[1]

※本記事は2012年3月に「リクルート進学総研」に掲載された記事からの転載です。

 先日来、政府の雇用戦略対話にて内閣府より共有された若者雇用に関する推計値が、マスメディア等で盛んに報じられています。
高等教育機関入学者のほぼ2人に1人が中途退学、卒業後無職もしくはアルバイト、就職後3年以内に早期離職のいずれかに当たり、「教育から雇用に円滑に接続できていない」とされるものです。

ご承知の通り、こうした事態は近年突然生じたものではありません。例えば大卒就職者の3年以内離職率が、30%を超えてから15年の歳月が流れています。そして、そこにはいろいろな構造的な問題が複雑に絡み合っているという指摘もこれまで多くなされてきました。

こうした状況について、検討されるべきテーマは、主に以下の3点に集約されていると認識しています。[1]学校から職場への接続、[2]若者に対するキャリア教育、そして[3]就職や就職活動の在り方です。

では、実際に今の大卒就職で何が起きていて、そこにはどんな兆しがあるのでしょうか。
3月に発表した『就職白書2012』の調査結果を用いつつ、探ってみたいと思います。

●2012年卒生の就職状況は、震災影響を受けつつも堅調に推移

 2012年卒就職/採用を振り返る上で欠かせない観点は、やはりあの大震災の影響でしょう。

『就職白書2012』の調査では、学生の60.9%が東日本大震災の「影響があった」「やや影響があった」と回答しています。

地域別に見ると、「関東」が68.7%、「北海道・東北」が70.3%で、特に「岩手・宮城・福島」は85.7%と、他の地域よりも高くなりました。一方、それ以外でも50%を超えており、直接的な被害が大きかった地域以外の学生にも、震災の影響が及んでいたことが分かりました。

自分自身の就職活動への東日本大震災の影響の程度

 また、具体的な影響について見てみると、「企業の採用スケジュールの変更」(83.3%)、「企業からの連絡、情報提供の遅延」(62.6%)が圧倒的に高く、企業の採用中止(28.6%)、内定取得企業からの内定取り消し(0.9%)と、就職機会そのものよりも、就職活動プロセスへの影響が大きかったことがわかります。

このようにプロセスで震災の影響を大きく受けた2012年卒生の、就職活動結果はどうだったのでしょうか。

民間企業を対象に就職活動を行った学生のうち、昨年12月時点で「民間企業」および「民間企業以外」に就職が決定している学生は、大学生が65.6%、大学院生が87.3%となりました。
この数字が高いか低いかは一概には論じられませんが、厚生労働省・文部科学省による「平成23年度 大学等卒業予定者の就職内定状況調査」の就職内定率も前年を上回る水準で推移していることなどから、震災がその結果を著しく悪化させることはなかったと見るべきでしょう。

●就職市場が抱える根本課題:『就職難』と『採用難』の同時進行

 厳しい厳しいと言われがちな大学生の就職ですが、2012年卒の大卒求人倍率は1.23と、就職を希望する学生1人に対し1.23の求人枠がある状態であり、これは労働市場全体の有効求人倍率(0.73倍、正社員有効求人倍率は0.48倍、いずれも2012年1月)に比べかなり高い水準です。

こうした数字と実感値との乖離を説明する材料として、まず見るべきは「重複内定」の実態です。『就職白書2012』の調査結果によると、民間企業を対象に就職活動を行った大学生の33.8%、大学院生の12.0%は、昨年12月時点までに一度も内定を取得していませんでした。

内定を取得した企業の総数[12月時点]

 一方、内定取得者の38.5%は2社以上の内定を取得していたのです。

また内定を2社以上保有していた理由は、1位:同時期に複数の内定が出たから(57.0%)、2位:より志望度の高い就職先の選考が終わっていなかったから(54.0%)が圧倒的に高く、学生が同時期に複数企業にアプローチする中で、企業の内定が重複してしまっている状況が垣間見えます。

こうした状況が起こる原因の1つは、企業の「量より質」のスタンスです。
採用数が満たなかった場合の対応として、「採用数を満たすため基準を見直し、柔軟に対応する」企業はわずか7.4%。59.2%の企業は「採用数に満たなくても求める人材レベルは下げない」としているのです。
この「レベルは下げない」とする割合ですが、従業員規模別に見ると、実は300人未満が最も高くなっています。中小企業の求人倍率が高いことは事実ですが、だからといって入りやすいわけではないのです。

「働きたいけれど就職できない」「いい人材が欲しいけど採用できない」
まさに今の就職市場は、就職難と採用難が同時進行していると言える状況なのです。

 次回は、学生の就職活動プロセスについて、詳しく見ていきたいと思います。

株式会社リクルート『リクナビ』編集長
岡崎 仁美 profileはこちら

【連載一覧】

<第1回>大卒就職のイマ[1]

2012年卒生の就職活動に対する震災の影響と、ここ数年就職市場が抱えている課題について解説します

<第2回>大卒就職のイマ[2]

情報収集から内定に至るまでの「就職活動プロセス」について解説します

<第3回>大卒就職のイマ[3]

「“決まる人”と“決まらない人”との違い」について解説します

<第4回/終>大卒就職のミライ

大学、そしてリクルートができることについて、『カレッジマネジメント』小林編集長と共に考えます

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