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2025.03.05

就職先産業・職業の変化から推考する、学部生の専門職志向

【コラム「研究員の視点」】Vol.3 新規学卒者の卒業後進路の長期推移 第3回(全4回)
 

学校基本調査「卒業後の進路」データから見る、新規学卒者の進路の長期推移

前回記事から引き続き、学校基本調査「卒業後の進路」データから、新規学卒者の進路の長期的な推移を見ていく。本記事では大学学部卒業者の就職先産業・職業の変化に注目する。
(集計条件詳細やコラムでは取り上げない集計結果はデータ集で公表しているので、適宜参照いただきたい)

▼リンク
学校基本調査「卒業後の進路」データ概説(第1回コラム冒頭)
 

学部卒業者の就職先産業の変化:近年はとくに「情報通信業」への就職者数が増加している

2023年度の学部卒業者における就職者数は、2003年度比で約15万人増加した(男性+51,365人、女性+96,733人)(※1)。女性の学部卒業者が大幅増加しており、増加分の約2/3は女性だ。産業別(※2)では、女性は「医療、福祉」への就職者増(男性+9,017人、女性+31,079人)が突出している。また、男性・女性とも「情報通信業」への就職者増が大きい(男性+12,374人、女性+13,526人)。2003年度比では大きく減少した産業はない。

2023年度の学部卒業者における就職者数の増減を、2018年度比で見ると、就職者が大きく増加した産業だけでなく、大きく減少した産業も見られる(※3)。就職者数全体では約1.2万人の増加(男性+2,885人、女性+9,032人)だが、「情報通信業」だけで約1.1万人の増加である(男性+5,757人、女性+4,951人)。次いで「医療、福祉」の増加が大きく、約0.8万人増加している(男性+1,022人、女性+7,256人)。最も減少した産業は「金融業、保険業」で、約1.1万人減(男性-3,149人、女性-7,941人)だ。他には「製造業」の約0.5万人減(男性-3,345人、女−1,502人)、「卸売業、小売業」(男性-2,726人、女−2,080人)の0.5万人減等である。

いま挙げた産業のうち、「情報通信業」、「金融業、保険業」、「製造業」「卸売業、小売業」の4産業における2023年度就職者数の2018年度比増減について、男女別に、関係学科別の内訳を見る(図1)。

図1 学部卒業者に占める修士課程への進学者率(関係学科「理学」「工学」「農学」別)

文理を問わず、製造・金融・保健・小売等の産業から情報通信産業へと就職先産業がシフトしてきた

図1からは、学部卒業者における就職先産業が、コロナ禍の前後で文理を問わず、製造・金融・保険・小売等の産業から情報通信産業にシフトしたことが見て取れる。男性では、「製造業」への就職者数減の大半は、社会科学系と工学系の就職者数減によるものだ。「卸売業、小売業」「金融業、保険業」への就職者減の大半は、社会科学系の就職者減によるものだ。「情報通信業」への就職者数増の大半は、社会科学系と工学系の就職者数増によるものだ。女性では、「金融業、保険業」への就職者数減の大半は、人文科学系と社会科学系の就職者数減によるものだ。「卸売業、小売業」への就職者数減の大半は、人文科学系の就職者数減によるものだ。「情報通信業」への就職者数増の大半は、人文科学系と社会科学系の就職者数増によるものだ。男女それぞれの傾向をもとに、コロナ禍前後の学部卒業者の就職先産業の変化を要約するならば、文理を問わず、製造・金融・保険・小売等の産業から情報通信産業へとシフトしたといえるだろう。

就職先としての人気産業はこれまでも変化してきた。かつては製造業のなかでも繊維関連等が人気を集め、その後、輸送機械や電子機器等の製造業に人気産業が移行した。そして、さらに商社や金融業が人気産業となった時代もあった(※4)。情報通信産業への就職者数の増加も、過去から続く成長産業への人気の移り変わりの一端だろうか。
 

学部卒業者の就職先職業の変化:専門職志向の強まり?

学部卒業者の就職先「職業」の変化に注目すると、人気「産業」の変化とは異なる側面もうかがえる。2023年度の学部卒業者における全体、及び、職業別の就職者数の増減を、2018年度比で見ると、事務職・販売職への就職者数の減少と、IT専門職への就職者数の増加が確認できる。前述の産業別増減と同じく、全体では約1.2万人の増加だが、「専門的・技術的職業従事者(以下、「専門・技術」)」への就職者数が最も増加している(男性+7,825人、女性+14,600人、男女計+22,425人)。最も減少した職種は「事務従事者」で約1.1万人減(男性−5,171人、女性−5,891人、男女計−11,062人)だ。次いで、「販売従事者」への就職者数が約0.3万人減(男性−1,805人、女性−1,379人、男女計−3,184人)だ。事務職や販売職への就職者数が減少し「専門・技術」への就職者数が増加したことになるがこの、「専門・技術」への就職者数の増加分のおよそ半数は、「(専門・技術)情報処理・通信技術者」の増加によるものだ(男性+6,621人、女性+3,698人、男女計+10,319人)。

「事務従事者」「販売従事者」「(専門・技術)情報処理・通信技術者」の3職業における2023年度就職者数の2018年度比増減について、男女別に、関係学科別の内訳を見る(図2)。

図2 学部卒業者の2023年度職業別就職者数、2018年度比増減(関係学科の内訳)

図2からは、学部卒業者における就職先職業が、コロナ禍の前後で文理を問わず、事務職・販売職からIT専門職にシフトしたことが見て取れる。男性では、「事務従事者」への就職者数減の大半は、社会科学系の就職者数減によるものだ。また、「販売従事者」では社会科学・工学・人文科学・保健など幅広い学科系統で就職者数が減少している(例外的に、関係学科系統「その他」の就職者数が増加)。そして、「(専門・技術)情報処理・通信技術者」への就職者数増の大半は、社会科学系と工学系の就職者数増によるものだ。女性では、「事務従事者」への就職者数減の大半は、人文科学系、及び、社会科学系の就職者数減によるものだ。また、「販売従事者」への就職者数の減少の大半は人文科学系と教育系の就職者数減によるものだ。そして、「(専門・技術)情報処理・通信技術者」への就職者数増の大半は、社会科学系、人文科学系の就職者数増によるものだ。男女それぞれの傾向をもとに、コロナ禍前後の学部卒業者の就職先職業の変化を要約するならば、文理を問わず、事務職・販売職からIT専門職へとシフトしたといえるだろう。

このように近年の学部卒業者においては、就職先「産業」と就職先「職業」の変化も見られる。つまり、「金融業の事務職からIT産業の事務職へ」のような産業だけの変化ではなく、「金融業の事務職からIT専門職へ」のように、職業の変化も並行しているものと見て取れる。就職先産業と就職先職業のデータは別々のものとして公開されている(産業と職業のクロスはできない)ため、精緻な分析には限界があるが、学部卒業者の間で「専門職志向」が強まっていることがうかがえ、情報通信産業が学部卒業者の専門職志向の受け皿になっているという見方もできそうだ。
 

専門職志向の受け皿としての情報通信業

学部卒業者の専門職志向が強まっていると見る理由を、弊所「就職みらい研究所」の調査結果から補足したい。弊所では2013年以降、「働きたい組織の特徴」と題した調査を実施している(※6)。大学学部4年生・大学院修士2年生に、「どんな組織で働きたいか?」に関する29項目を回答してもらっている。この調査の1項目に注目する。質問の内容は下記である。

「A:どこの会社に行ってもある程度通用するような汎用的な能力が身につく」
「B:その会社に属していてこそ役に立つ、企業独自の特殊な能力が身につく」

AとBどちらに自分の考えが近いか、「A」「どちらかといえばA」「B」「どちらかといえばB」の4つの選択肢で回答してもらっている。回答結果の推移(※7)を確認してみよう(図3)。

図3 「働きたい組織の特徴」の回答推移(全回答者のうち大学学部4年生のみ集計)

2024年の調査(グラフ左側「25年卒」)において、大学学部4年生(n=1,771)の「A」「どちらかといえばA」を合わせた回答率(A・計)は、77.0であった。2013年の調査(グラフ左側「14年卒」)でも同じ質問を聞いており、当時の回答者による「A・計」の回答率は66.7%であった。どこでも通用する能力を身につけたいという、専門職志向の学生が増えてきたことがうかがえる。

学校基本調査データで見た学部卒業者の就職先産業・職業の変化とあわせて、次のような解釈ができるかもしれない。学部学生からさまざまな産業を見たとき、情報通信産業に就職するとスキル(能力)が習得できる(できそう)という期待が高く、専門職志向が強めな学生ほど魅力(将来の安定・安心)を感じる。情報通信産業は一般的に成長産業であるが、人手不足が深刻化する可能性も指摘されており(※8)、学部・学科や情報通信に関する専門技術の有無を問わず、新卒採用に積極的な企業も多いと想定される。学部卒業(予定)者から見れば専門職のキャリアが期待できる就職先として、新卒採用に積極的な企業としては自社養成エンジニアの候補として、双方の期待がマッチングする結果、学部卒業者における情報通信産業への就職者数が大きく増加しているのではないか。

このように解釈すると、学部卒業者における就職先産業が理文や性別を問わず情報通信業にシフトしてきた背景には、産業構造の変化だけではなく、学部卒業者自身のキャリア志向の変化、「専門職志向」の強まりが影響していると考えられそうだ。
 

学部卒業者の専門職志向と産業の多様性

当然だがさまざまな産業において、さまざまな専門職人材が必要であるはずだ。金融業、製造業、小売業、卸売業では専門的な知識やスキルを持つ人材が必要ないということではない。だが、学部卒業(予定者)にそれが十分に伝わっていない面はないだろうか。新規学卒者が就職後、どのように専門職としてキャリアを築いていけるのかについて、多様な可能性を示すことができれば、さまざまな産業において新規学卒者の専門職志向と自社の仕事との接続ができるものと思われる。

本記事では産業・職業別の就職者増減から、学部生の専門職志向の強まりについて考え、それを踏まえた企業の採用のあり方について考えた。

次回の記事では、博士課程修了者の推移を見たうえで、とくに民間企業・公的機関の研究職としての就職に注目したい。

文/清水山隆洋(就職みらい研究所 研究員)

※本記事は筆者の個人的な見解であり、所属する組織・研究会の見解を示すものではありません。

 

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(※1)詳細はデータ集P6「1. 新規学卒者の卒業時進路決定状況の推移(大学学部、大学院修士課程・博士課程)1.2. 就職者数・就職者率」を参照のこと。
(※2)詳細はデータ集P8「2. 学部卒業者の卒業時進路決定状況の推移 2.1. 産業別2023年度就職者数、2003年度比増減」を参照のこと。
(※3)詳細はデータ集P9「2. 学部卒業者の卒業時進路決定状況の推移 2.2. 産業別2023年度就職者数、2018年度比増減」を参照のこと。
(※4)ダイヤモンドオンライン(2022) , 「池上彰氏に聞く就活『今の人気業界に入るのが必ずしもいいとは言えない理由』」
https://diamond.jp/articles/-/314119?page=2

(※5) 詳細はデータ集P12「2.学部卒業者の卒業時進路決定状況の推移 2.5.職業別2023 年度就職者数、2018 年度比増減」を参照のこと。
(※6)毎年の調査結果や関連レポート等は下記ページより参照のこと。
https://shushokumirai.recruit.co.jp/category/study_report_article/organization/

(※7)就職みらい研究所(2023), 「『働きたい組織の特徴』 時系列データ編2014~2025年卒」
https://shushokumirai.recruit.co.jp/study_report_article/20241106001/

(※8)みずほ情報総研(2019), 「―IT人材需給に関する調査 調査報告書―(経済産業省委託事業)」
https://www.meti.go.jp/policy/it_policy/jinzai/houkokusyo.pdf

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